突然、心の中で文字が読めなくなった。②
心の中で文字を読めなくなったまま、半年が経った日、私は、独自の「読み方」を形成していた。
それは、小さな、本当に小さな声で発声しながら読むという、単純なものから始まった。
やがて続けている内に、口の中を、発音する時の「形」にして息を吐くだけで、読むことを可能にしていた。
声は出ていないので、端から見れば、口呼吸しているだけにしか見えない。
私は、この日を境に、徐々に自信を取り戻していった。
読書中などは、高頻度で呼吸を繰り返すことになるため、手足が痺れたりもするが、気にはならなかった。
しかし、ある日突然、この現象は終わりを迎えた。
いつもの「読み方」で読書を始めたにも関わらず、読書終盤まで治っていることに全く気づかなかった。
(治っている!)
気づいた時は、興奮半分、疑問半分だった。
(何故、今さら?)
考えた結果、独自の「読み方」を形成したが故に、「読むこと」へのストレスを感じなくなったからだと勘づいた。
つまり、これまでは、読むことへの圧倒的ストレスが故に、かなりの「意識」をしなければ、自然に読めなかったものが、
独自の「読み方」を発見したことで、「意識」は消え、「無意識」かつ夢中で読むことに成功したのだ。
そして、「無意識」状態が、以前の、「普通の読み方」を引き戻した、ということなのだと思う。
以上が、私の「存在しない病気」への「闘病」エピソードでした。
同じ境遇の方の救いになればと思い、書きました。
読了、ありがとうございます。
(補足、をするならば、どんなに「嫌な現象」でも、「拒絶」をすることで、結局、強烈な「意識」をしてしまっていることに繋がる。←これがメチャクチャ怖い。
ということです。)
Enoha
突然、心の中で文字が読めなくなった。
「存在しない病気」になった時の話を、良ければ聞いて欲しい。
それは、ある時、突然、「心の中で言葉を発音することが出来なくなる」というものだった。
人は黙読するとき、心の中で言葉を発音する、という状態で文字を読んでいるが、それが全く出来なくなったのだ。
その日、その瞬間まで、普通に小説やゲームのテキストを読んでいたのが、急に、口で発音しなければ続きを読み進められなくなった。
その日は、疲れているだけと思い、気にはならなかったが、翌日、また翌日とこの現象を重ねる内に、病気を次第に疑い初めた。
すぐにネットで検索した。
が、何の情報も、可能性も、得られなかった。
それからは、毎日が地獄のようだった。
小説も、テレビのテロップも、漫画の吹き出しも、その効果音さえも、
何もかも、文字が読めない。
声に出さなければ、読み進まない。
幸い、「思考」することは出来ていた。
しかし、いずれそれすらも出来なくなることが恐ろしかった。
心から音が消えることが、怖かった。
私はこの現象の原因を考えた。
「病気」でないのだとすれば、これは一体、何なのか?
「悪癖」であると、私は思うようになった。
最初にこの現象が現れた日、私は疲れていた。
故に、その時の、「文字が読めない状態」の読み方を、無意識の内に、今もなお繰り返しているのではないか?
と思ったのだ。
そう感じた、次の瞬間、私は、治る予感がした。
治ることは、しかし無かった。
「存在しない病気」に苦しめられることは、
可能なのか。
それから、半年が経った。
(長くなったので、次回に続きます。)